+α 漢字抽出法

いくつ漢字を覚えれば、仕事に支障がなくなるのだろうか‥‥‥

多くの学習者が抱く思いです。漢字学習においても「N3+α」は効率化の鍵です。

最近は、ルビ振りや翻訳アプリが充実してきて、漢字学習は選択肢の一つになりつつあります。それは同時に、いつでもルビや意味が確認できて漢字学習がしやすくなったということもできます。分野ごとに「+α」の漢字を絞り込んで学ぶことで、仕事に支障のない漢字力を効率よくつけることができます。

 

 

Reported by しなだ

東京在住 BPC研修サービス代表

カバー率と+α漢字

JLPTのN5、N4、N3の漢字の総数が約600字、そして、N2が約1000字とされています。

漢字も、N2の1000字までがんばるより、600字程度わかるようになったら、自分の仕事でよく使われる漢字「+α」を学んだ方いい、そう言えるのでしょうか。

 

ずっと以前の話ですが、当時の国立国語研究所の調査研究で、日本語教育の基本漢字500とされている漢字が、いろいろな日本語の文章に出現する漢字をどのくらいカバーしているかについて検証したものがありました。それによると、おおよそ常用漢字だけを用いて書かれている文章であれば、基本漢字500のカバー率は、70〜80%ということでした。(現在、文化庁国語科による「漢字出現頻度数の調査について」(令和1年)という報告書は見つかりましたが、これは最低でも常用漢字を対象としたものでした。

 https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/nihongokyoiku_hyojun_wg/04/pdf/91934501_08.pdf 

 

その発表を聞いてから、当時、いくつかの新聞記事や雑誌の記事でカウントしてみたところ、確かに、70%から80%カバーされていました。それ以来、学習者に「まずは500字覚えればいい。あとは、興味のある文章を読みながら、少しずつやっていけばいい」と言って、漢字学習の動機付けをしてきました。

 

まず、N3までの漢字が、いろいろな業種・職種で使われている漢字をどのくらいカバーしているか、確認してみましょう。

 

 

確認の手順

(1) EXCELに、N5、N4、N3の漢字を1列に全て入力します。

(2) 調査する文章(新聞や雑誌の記事、ホームページ、報告書、提案書など)に使われている漢字を別のシートの同じように入力します。全て入力して、重複削除をかけると、異なり漢字を入力することができます。(文章の場合は「リーディング チュウ太」https://chuta.cegloc.tsukuba.ac.jp/ も利用できます)

(3)(2)の漢字を1列のまま、(1)で入力した漢字と色を変えて、同じ列の下にペーストします。(例えば、(1)は黒で、(2)は赤にする)

(4)(3)を昇順でソートします。

(5) N5、N4、N3の漢字と重なっている漢字は2つ(黒と赤)あります。それがカバーされている漢字です。

(6) 一つしかない赤の漢字がカバーされてない漢字です。

(7)(2)における(5)の割合がカバー率。(6)は「+α」の候補です。

 

 

業種・職種別の+α漢字の抽出

 

N3までの漢字が、いろいろな業種・職種で使われている漢字をどのくらいカバーしているか、確認してみましょう。

ランダムに選んだコンビニエンスストアのウェブサイトのページに出現した漢字を拾ってみたところ、異なりで139字ありました。

 

栄温我介鶏検固康控香採材索鮭汁焼紹賞辛酢厨接設袋沢団暖諦唐糖豆豚賠薄皮併安化加画会感願喜期客究具件健研険原限口広合国黒込産使指紙事時自質実社取種集処所書商場情食申進水成声石責切然全組増地置中直定天店当答道得特読肉熱売白飯品風物分弁保舗募報房墨慢味面麺問約予様用養抑利理料類和炒贅

 

このうち、N5N4N3漢字に含まれない漢字は36字でした。

栄温我介鶏検固康控香採材索鮭汁焼紹賞辛酢厨接設袋沢団暖諦唐糖豆豚賠薄皮併

 

つまり、74%はN3までにカバーされています。そして、この36字こそ「+α」候補です。なぜ、候補かというと、その記事特有の漢字も多少は含まれているからです。「+α」を選び出すには、コンビニ業界に関する様々な文書で同じ作業を繰り返し、それらの中で共通に出現する漢字が、コンビニ業界に必要な漢字「+α」なのだと思います。

 

ちなみに、特定技能「宿泊業」のテスト問題(WEB上で公開)では「+α」候補が74字で、N3までで71%製造業の5S活動についての資料では、「+α」候補が38字で、N3までで76%がカバーされていました。