「ケース学習」は、現場で生じた問題について、異なる考え方をもつ人同士が討議を重ね、それぞれが解決案を考えていく学習方法です。日本語教育現場の問題についても、この方法で検討してみたいと考えました。
「ケース」を共有しますので、教師もしくはステイクホルダー間による勉強会や研修等でお使いください。
《参考文献》
近藤彩他(2013)『ビジネスコミュニケーションのためのケース学習』ココ出版
このケースの作者は、まつひろメロンさん(日本語教師@登録支援機関)です。
N3に合格しないと日本にいられなくなる?
松山さんは、現在、特定技能人材を支援する登録支援機関で働いています。以前は日本語学 校や専門学校で専任講師として 15 年以上働いていましたが、ステップアップするために大学 院に入学しました。大学院では、日本語学校の構造と教師の言語教育観の関係について研究し ました。そして、修了後、現在の法人に就職しました。
現在の法人に就職した当初の松山さんの仕事は、日本語学校を立ち上げることでした。しか し、コロナの影響で立ち上げが中止となり、しばらくはオンライン日本語スクールを運営して いましたが、法人の方針転換で日本語スクールも中止となり、それに代わる事業として登録支 援機関をすることになりました。松山さんはこの登録支援機関の中心メンバーとなって1年経 ったところです。
松山さんの登録支援機関での仕事は、企業で働く外国人のビザ申請書類の作成支援をするこ と、生活・就労支援の計画を作り、それらを実施、管理し、企業と東京出入国管理局に報告す ることです。また、外国人を雇用している、または雇用したいと思っている企業の要望を聞い て日本語教育のプログラムを提案し、提案が通った場合は教師を編成してプログラムの実施、 運営管理をすることも行っています。日本語学校で働いていた時に、企業研修の運営・管理を したことはありますが、自分から企業の要望を聞いて、日本語教育プログラムを作って、企業 に提案するという仕事は今までに経験がありません。最近、人材紹介会社の G 社から日本語研 修提案の依頼がありました。内容は「建設業界で働いているぜんぜん日本語ができない外国人 を N3 に合格させるプログラムを提案してほしい」というものでした。
G 社は、フィリピンにある送り出し機関と提携し、フィリピン人の技能実習生、特定技能人 材を建設業を営む企業に紹介している会社です。建設業界には技能実習、特定技能の外国人が 多く働いています。彼らは自国の送り出し機関で、建設業の技能と日本語を学び、来日してい ます。来日後は、1か月間研修を受け、その後首都圏の現場で働くそうです。入国時の研修で 日本語学習はするけれど、その後継続して学習している人はほとんどいなく、日本語ができな いまま現場で働いているとのことでした。G 社の永井さんは「技能実習制度が育成就労になっ たら、N4 に合格しないと特定技能になれなくなります。合格できなかったら、彼らは国に帰 らなければならなくなります」と言い、技能実習の 3 年で N4、特定技能の 5 年で N3 に合格 させるプログラムを提案してほしいと言いました。
松山さんは、彼らが職場や地域社会で周囲の日本人と円滑な意思疎通ができるようにするた めに、活動を中心としたプログラムを提案しました。また、職務に直結した内容を取り上げ て、いずれはキャリアアップにつながるような教材も作成しようと考えました。そして、その ニーズ調査のために、彼らと配属先の日本人社員にインタビューをさせてほしいと永井さんに 申し入れました。ところが、永井さんは、そういう余計なことはしなくていいから、彼らを N4、N3 に確実に合格させてほしいと言うのです。松山さんは、「仕事と関係する内容で日本語を学べば、職場内もうまく回るようになるし、本人たちのモチベーションも上がる」と説明 しました。しかし、永井さんは、「試験に落ちて日本にいられなくなったら、会社も彼らも困 るんだよ」「仕事の日本語と N3、N4 の勉強を一緒にやるなんて、効率が悪い」といって、提 案を受け入れてくれませんでした。
松山さんは、仕事で疲れた後に受験勉強をさせられている外国人材が目に浮かび、彼らが 日々直面しているであろう職場でのコミュニケーションの問題に目をつぶらなければならない のかと憂鬱になってしまいました。
タスクシート
(1)それぞれの気持ちを考えてください。
・松山さんの気持ち
・永井さんの気持ち
(2)この状況で何が問題だと考えますか。
(3)あなたにも似たような経験がありますか。
(4)あなたが松山さんだったら、このような場合どのように行動しますか。
(5)あなたが松山さんに相談された場合、どのようなアドバイスをしますか。
参考資料 『ビジネスコミュニケーションのためのケース学習』ココ出版
BPC研修サービス
Business Process Communication Training Service
https://www.bpcts.org/
代表:品田潤子
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